Cyber Assasins

大統領が声を高くして演説した。

「我々の国は、これからサイバーテロリストを厳しく処罰する。」

拓也はそれを知ってほくそ笑んだ。

――できるはずがない。――

もともと、この国がこうなるなんて、拓也には予想の範囲内だった。以前から、IT技術の急激な進歩に法整備が追いつかず、ネットワーク上での事件がエスカレートしていた。政府はそれを当然知りつつ、しかし警察は最新の技術を知らなかった。よって、彼らが事件の全容解明をすることはおろか、犯人を捕まえて処罰するなんて、めったにない話だった。それこそ、できた人は国民栄誉賞級だ。

拓也はそう思っていた。こんな状態で警察のレベルが上がるわけがない。だいたい警察ってものは現場を知らない。現場を日頃から経験している拓也は、完全にそれを見抜いていた。こうすればもっと効率的に犯人を捜しだせるのに…、とアイデアが思い浮かぶことさえあった。しかし、拓也はそれを公で言うことはなかった。言っても何も問題はない。むしろ警察のサイバーテロリスト取り締まりに抜擢される可能性すらあった。

しかし、拓也はそれを好まなかった。それもそのはずだった。拓也はもともと、国のことが大嫌いだった。国、というよりは、社会かもしれない。

拓也は決して不良でも、よくある軽微な犯罪者でもなかった。彼は学生時代、普通の成績で人並みに卒業できるはずだった。しかし、あるときをきっかけにそれが大きく崩れた。

もともと、彼はつまらないことが嫌いだった。それは授業のこともそうだったが、そもそも教育というものが彼には物足りなかった。別に学者になるつもりもない。しかし、もともと変なところで知識がなまじ強いばかりに、「こう教えれば良いのに……」と思うときもあった。もっとも、だからこそ日々起こるネットワーク犯罪の手口を検証することができたわけだが。

彼は高校の途中、独学でITの勉強を始めた。大学の様子でも見に行くか、と、ある大学のオープンキャンパスに行った。その大学は決して有名ではなかったが、拓也はパンフレットを見る限りでは、ありがちな古い退屈な教育ではなさそうだと思ったからだった。しかし、そこでの学部長の講演を聴いて絶望した。

――この国のITは凋落している――

拓也は別に特段、ITに強いわけではなかった。ただ、幼少の頃から触れてきたコンピューターのことが好きであるだけだった。だから、「何となく」その系の道に進もうと思っただけだった。拓也の成績だったら、その大学は十分合格圏内だった。

今まで我慢に我慢を続けたところもある。この国では、以前は中学受験をすれば、普通はエスカレートで高校に行くことができ、下手すれば大学まで通ることもあった。その教育システムは別に悪く作用していたわけではなかった。しかし、エスカレートが魅力的で中学受験に挑む人が多く、また、彼らの親もそれを推奨していた。学歴が給料に直結するようなシステムだったからだ。

だが、全ては文部科学省の思い通りになったわけではない。拓也のような人間は、まさにそれだった。中学受験に勝っても負けても、廃れるだけだった。勝ったやつは確かにそのときは頭がキレるけど、その後におごりたかぶり堕落することが多かった。負けたやつは負けたやつで、まるで一生が決まったかのように絶望し、腐っていく人間が大半だった。

文部科学省はその事態を重く見ていた。しかし、そもそも視点が違っていた。現場無視の方針を打ちだし続けていた彼らは、受験というシステムを複数回作れば、それが刺激になり、堕落はしないだろうと考えたようだ。ある年をきっかけに中学受験をしても、高校受験があるのが当たり前になり、大学受験ももちろん……、であった。カリキュラムも大きく変わった。詰め込み教育が当然となり、学習塾のような教育が学校でも当たり前になった。それができない先生はクビを切られた。

学生達も、ついていけるはずがなかった。息つく暇のない戦い。例え中学受験で勝っても、高校受験で絶対通る保証がない。学歴が全てである以上、1回失敗すれば、それが全てになった。多くの企業は、大学院ぐらいでないと人をとらなくなった。それ以外は全て門前払い。口はなかった。あるとしたら、ヤクザの世界ぐらいだろう。

拓也の世代は、そのシステムの変更を直でくらった。拓也は幸いにも高校受験まで通ることができた。しかし、既にその教育にはうんざりしていた。それでも我慢していたのに、大学受験を我慢する気力があまりない上、学生の気持ちなど知らずに凋落している……。あきれるどころか笑いをこらえるのに必死だった。

それから拓也は高校に行かなくなった。当然、こんな時世である。すぐに担任は連絡をしてきて、ひっきりなしに学校に来いと強要した。拓也はそれをあざ笑うかのように無視を続けて、結局、愛想を尽かした学校側は拓也を退学処分にした。

さすがにそのとき、拓也は失笑するしかなかった。何の理由もない突然の退学処分。もともと学歴が全てだ。退学なんて言葉がつけば、一生が決まったようなものだ。親も特に何も言わなかった。完全に見放されていた。

しかし、思わぬバイパスがあった。これで一生バカだ、そう覚悟を決めかけた拓也はインターネットを徘徊していたところ、ある組織を見つけた。それは、彼と同じような境遇の人の集まりであった。組織自体は秘密的なようなものであった。オフィシャルサイトなるものはあるものの、情報はわずかしかなく、興味のあるやつはどこそこへ来い、としか書いていなかった。いかにもうさんくさい。

――非合法なことでもやっているんじゃないか?――

しかし、どうせもう正当な道は決まったようなものだったから、彼は親に特に相談もせずに、その組織の事務所へ行った……。

事務所は廃墟のようなところにあった。しかも地下だった。

――こんなこと書いてあったか?――

だいたいの場所は確かに書いてあった。したがって、拓也は迷うことなく、そこにたどり着けたわけだが、そこからが妙に長かった。誰もいないようなところ。建物も廃墟なところが多く、人の気配はなかった。夜になったら、照らすものすらなさそうだった。そこに目印の階段があった。どうも前は地下鉄の駅として使われていたらしい。その地下鉄は既に廃線になっていた。企業自体がつぶれてしまい、そればかりに撤去は誰もしなかったようだ。まさか、そんなところを勝手に使っている組織があるなんて……。

事務所と言っても、そんなにすごいものではなかった。もともと地下鉄の駅の廃墟だ。事務所の大きさと言ってもたかが知れていた。本当に大丈夫なのかと思いつつも、拓也はドアをノックして開けてもらった。

部屋は薄暗かった。しかし、一応、こぎれいには整理してあった。ただ、やけに書類が多かった。何なのだ、と思った。しばらく辺りを見回していたが、すぐに応接セットの席をすすめられ、すわった。相手はほぼ自分と同じくらいの年だった。

彼は名刺をポケットからだした。名刺にはこう書いてあった。

Cyber Assasins代表
高橋 浩平

――サイバーアサシンズ? なんだこれは。――

拓也が疑問に思っているとすぐに質問が始まった。

「まず、この英語の意味が分かるかな。」
「サイバーアサシンズ?」
「2つの単語に分けて考えれば良いだろう。」

――アサシンって、暗殺者?――

拓也が何となくピンと来たとき、いつ部屋の中に入ってきたのか、銃をもった人達が数人、入り口をふさいでいた。驚いて拓也はその人達に目をやったが、すぐに高橋の方を向いた。

「驚かないでほしい……。ただ、君がここから帰ってこられるかどうかは、これからの質問の答え方次第だ……。」

――やっぱり秘密組織だったんだ。――

どのみち、ここに来なくたって自分の人生は知れたようなものだった。拓也は特に焦ることはなく、

「質問にはちゃんと答えます。」

と言った。

面接が始まった。まず、今までどういう教育を受けてきたか、そしてネットワークの知識はどのぐらいあるか問われた。拓也は特に隠すこともなく正直に答えた。

「ふむ。だいたい君のことは分かった。では本題に入ろうか……。」

拓也は軽くうなずいた。

「まずこの組織というものについて説明しないといけない。」

高橋の説明はだいたい以下のようだった。

最近発生しているサイバーテロのいくつかは、この組織が関与していること、そして、敵対勢力がいくつかあること、活動は主に専用のネットワークを通してやっていること、給料はスペシャリスト達が金融機関等のデータを狂わせてとったお金で実力に応じて分配しているということだった。

「質問はあるかな?」
「いえ、特にないです。」
「では、君が無事に帰っていけるかどうかに関わる質問をする。」

さすがに拓也は少し動悸が激しくなってきた。

「ここまで説明すれば分かる通り、我々の活動は非合法かつ危険な仕事だ。当然この活動を不用意に知られると困る。そこで入り口のやつらがスタンバイしているわけだが……。」

高橋がそう説明すると、入り口の男達は一斉に銃を拓也に向けた。

「知識なんかはどうでも良い。それらについては我々が指導をするし、例え才能があまりない人でも、そういう人にはそれなりの仕事があるし、最低限のお金は入るはずだ。ただ、ヘマをやらかされると困るからね……。我々はできる限り、そういうときはあらゆる手段を使って助けに行くだろうが、うまくいかないときもときどきある。無知からきたものは仕方がない。ただ、裏切りをしたときには当然それなりの処分がされることになる……。それでも君は参加するつもりがあるか?」

拓也は迷ったが、当然ここでノーと答えれば撃たれることなど分かっている。どのみち同じだ……、拓也はうなづいた。

「よし。銃をおろせ。お前達は元の仕事場に戻れ。」

入り口の男達は一斉に立ち去った。

「それじゃ、この申し込み用紙を書いてもらう。もちろん、これは厳密に扱うから心配しないように。」

書くことは基礎的なことばかりだった。名前やら住所やらそれぐらいだった。書き終えた拓也は高橋に書類を渡した。

「ふむ……、ここに住んでいるのか。」

今度は高橋から拓也に書類が渡された。と言ってもただの紙切れだった。そこにはインターネット上でのURIが書いてあった。

「一応、方々にそれなりの事務所みたいなものがあるが、基本的には先ほど言った通り、活動はネットワークを使って行う。特に出入りが激しいわけではない。これから君の自宅に最も近い場所…、つまり、もし何か特別の用事があって来てほしいときは、その地点に来て車に乗ってもらうことになる。今から君をその場に送るが、安全上の理由から、その場への最短距離で移動するわけではない。特別なルートを通ることになる。悪いが、君にはまだそのルートを知らせるわけにはいかない。したがって目隠しをしてもらうことになる。もちろん、到着すれば目隠しははずしてやる。自宅へ迎うのに迷うような位置ではないから。もし忘れたら、その地点の情報だけは先ほど渡したURIにアクセスでもすれば分かるだろう。」

拓也はふと思った。

――そこまで知られるとやばいものが、オフィシャルサイトなんて作って良いのか? ましてや本部の場所まで書いてあるじゃないか。――

高橋にその疑問をぶつけてみた。

「さすがに気づくだろうが、その点は心配に及ばない。さっき入り口にいた連中はそのためのやつらだ。彼らは仕事場に戻ったと思うが、そこには何人か固まっているので、そう簡単に敵の侵入を許さない。何か不都合なことがあれば、場所を変えている。それに、ここが見つかったところで全ての情報がばれるようなことはしていないつもりだからね。書類の多さに驚いたかもしれないが、これらは暗号を使って書かれている。したがって、そのままでは意味が当然分からない。それは専門の人が解読することになっているから特に君に今すぐ知識が必要ではない。」
「それから、先ほどのURIに関しても普通のコンピューターにアクセスしたところではじかれる。そこで、これを使ってもらうことになるのだが……。どれにするかな、よし、これにしよう……。」

高橋は席を立つと、何やらノートパソコンが入っていそうな箱を渡した。

「アクセスするときは、このノートパソコンを使ってほしい。色々な理由からすぐにはアクセスできないが、なるべくすぐにできるように努力している。2,3日もすればつなげるようになるだろう。」

拓也はだいたい想像はついていた。

――MACアドレスを使って認証をかけているのだろう。――

「だいたい話すことは以上だ。後はアクセスしてもらえればすぐに疑問点は解決できると思うが……。特に何か聞きたいことがあれば質問に応じるが。」
「いえ、特にないです。」
「よし、それでは君を送る。私と顔を合わせる機会はこれからすぐにはそうそうないだろう。」

入り口には今度は別の男が数人立っていた。

高橋の言った通り、彼らに目隠しをされて車に乗せられた。特に手荒なことはされなかった。気づいたときには自宅の近くにいた。確かに迷うような場所ではない。そのまま自宅へと戻った。拓也が降りた後、車はすぐに視界から消えた。

数ヶ月後、拓也はそれなりにトレーニングも積んで、簡単ないくつかの仕事をしていた。ある日、いつものごとくそのアドレスにアクセスしようとしたところ、私書箱のようなものにメールが届いていた。送信元は「昌宏」だった。

拓也君、初めまして。

俺がどこに住んでいるかとかは詳しくは言ってはいけないのだけど、君の所属する地区の近くに住んでいます。

今回、俺が君にメールしたのは、ある活動を他の連中や君と一緒に行うことになったからです。詳しい話は、俺まで直接電話して聞いて下さい。俺の携帯電話の番号はQ&;icp$Dです。

ではよろしく。

昌宏

もちろん、この電話番号は暗号だ。ノートパソコンに入っている専用の解読ソフトで解読する。そして、拓也があのときにもらった箱の中には携帯電話も入っていた。これもその組織の専用のもので、何か知らないけどセキュリティ上の問題を配慮したようなからくりになっているらしい。スペシャリストのやる仕事はすごいなぁと思った。

それまで携帯電話を使う機会はなかったので、初めてそれを使って電話をかけることになった。

割とフレンドリーに話してくれた。活動の内容とはだいたい次のようなことだった。

あるネットワークゲームの国レベル級の大会が実施される。結構有名なネットワークゲームなので拓也も知っていたが、まさかそれを攻撃対象にするとは思わなかった。大会はネットワークを通じて行うので、データの改ざんのしようによってはだされる賞金を全て拓也の組織に回すことができるとのことだった。

拓也はそれらの全体的な仕事に関わることになったが、最も重要な仕事があった。それは、その仕事専用に使う架空の銀行口座から現金を引きだし、すぐ近くで待機している組織の人にそのお金を任せて、自分は別の車で安全に帰るということだった。最も命の保証がないとすれば、このときだろう。

どうやら大会の金銭管理のために警察も一応関わるみたいだが、それ自体は大したことはないだろうと昌宏は言った。問題は敵対組織が同じものを狙っており、奪い合いになる可能性があるという話だった。

大会の賞金は優勝者に直接手渡しではなく、その人が登録した銀行口座に振り込むことになっている。つまりそこでデータを改ざんしてしまえば、口座情報を操作できる。もっとも、普通に改ざんをしただけでは検知されてしまう。改ざんを検知するのはデータの暗号化に使う特別のハッシュ関数、つまりデータをいじくれば別の値がでてしまい、データが改ざんされたことがバレてしまうのだ。そこでそのハッシュ関数の仕組みを解明し、最悪でもシノニム……、つまりデータは違うのだが同じ値がでるようにして改ざんが検知されないようにしようというものだ。

拓也が最初に任された仕事は、優勝する可能性が濃厚な集団の代表者の銀行口座の登録情報をチェックすることだった。もちろん番狂わせがでる可能性があるので、他の人達の情報も調べる必要があるが、1人が全部それをやってしまうとバレるので、他の人達については別の人が担当する。

大会の申し込みはネットワーク上で行い、締め切りはある日の日付が変わる直前までになる。その時点まではデータが変わる可能性があるため、締め切りのときのデータさえ手に入れば口座の情報は割りだせる。

もちろん、これだけではうまくいかない。しかし、怠慢な管理会社の行う大会であることから、どこかにすきがあると考えていた。どうも、そのすきは結構大きそうだとの話だった。

大会の締め切りがきた。拓也は通信のデータを盗聴することに成功したが、まだこのままでは暗号化されていて読むことができない。しかし、とりあえず成功はしたので昌宏に電話をかけた。

「お疲れ様。ハッシュの仕組みがだいたい分かったよ。」

昌宏はそこから説明を始めた。思わず吹きだしたくなるような仕組みだった。口座の番号に重み付けをして、それを素数で割っているだけらしい。これではいかにも犯罪をして下さいと言っているようなものだ。さすがに怠慢だと言われるだけのことはある。

「と言うことは、架空の口座を作るときに、素数で割った余りが同じになるような口座番号にすれば良いのか。」
「まあ、そういうことになる。ただし、口座番号は普通自分が決められるものじゃないから、そこは金融機関のデータをいじくることになる。そこは専門の人がやるから君は知らなくて良い。で、盗聴したデータについてだけど、それを俺のところまでメールしてほしい。」
「了解。」

数日後、大会が行われ、順当、つまり予想されていた集団が優勝した。これにより、拓也の残りの仕事はお金を引きだすだけとなった。昌宏達の活躍により、架空の口座番号をうまく作ることに成功し、かつデータを改ざんして振り込ませることに成功した。後は一番近くにあるATMから引きだせば良い。

翌日、昌宏から電話が入った。

「今、振り込みがネットを通じて行われたことを確認した。既にお金を預かる人達は待機している。至急、○○地点のATMに行ってほしい。」

そのときには拓也もある程度身の安全には注意できるようになっていた。至急とは言ってもすぐに直接向かってしまっては、目撃情報等でバレる可能性がある。もっとも警察は今回の敵ではない。問題は敵対組織だ。護身用に、拓也はナイフを持って行くことにした。

拓也は自宅をでた後、徒歩で迂回しながら目的地までたどりついた。そして現金を引きだすことに成功した。

それを見ていたかのように、待機していた人達の車が近くにきた。その人達に現金を渡すことができた。後の架空口座の情報抹消等は拓也の任務ではない。自宅に帰るだけとなった。

そして、行きとは別のルートで迂回をしていたところで、急に行く手をふさぐ者が現れた。

「おい、そこの小僧め。おとなしく手を挙げろ。」

連中は銃をもっていた。どう考えても警察ではなく敵対組織だった。でなければ気づかれるはずがない。それに警察ならば、まず現金の車の方を狙うはずだ。しかし、そちらを無視して拓也を狙うということは、拓也を人質にするなりして、拓也のいる組織に圧力をかけようという気だろう。

拓也はナイフを持っていたが、これでは銃に勝てるはずがない。そのとき、拓也の背後からすごい音量のクラクションが鳴った。拓也がそれに気づいたときは、既に逃げ切れない状態だった。このとき、しゃがみこんでしまえば確実にはねられる。かと言って横に逃げるには時間が足りない。そこで車の上に飛び乗るつもりでジャンプした。

拓也はうまく飛び乗り、そのまま車はすごいスピードで拳銃を向けていたやつらのところに突っ込んだ。車は敵対組織のものを盗用したものだった。つまり、連中は拓也を殺すつもりで暴走してきたものと思いこんでいた。しかし拓也がそれに飛び乗ったことで逃げることに失敗し、連中は見事にはねられた。

車は拓也を落としてケガしないように慎重に速度を落として止まった。ドライバーは高橋だった。ずいぶん手荒なことをするものだとは思ったが、思わず笑ってしまった。安堵とまだ収まらない恐怖の両方で。

高橋はその後、拓也を、最初に訪れた事務所のところまで連れて行った。そのときには目隠しはされなかった。

事務所についた後、高橋は拓也に言った。

「ご苦労だった。見事に任務は完了したよ。しかし、まさか敵対組織が拓也の顔を覚えているとは思わなかったな。覚えているならば、別の方法を考えていたのだが。」

拓也は高橋に聞いた。どうして自分の危険を察知したのか。高橋は笑いながら言った。

「それはカンが働いただけだよ。だてにこの道でやっていないからね。君もそれなりに十分な注意はしていたと思うが、ちょっと甘いところがあった。しかし、そういうところも管理するのが我々の仕事だ。」
「今頃、事件が放送されているだろう。」

そう言って、高橋は携帯用テレビの電源を入れた。今回、ネットワークゲームの管理会社はもちろん、金融機関の情報もまるまる悪用されてしまったことを受けて、緊急の番組が放送されていた。そして、大統領は声を高くしてこう言っていた。

「我々の国は、これからサイバーテロリストを厳しく処罰する。」