オンライン文献管理システムの提案 - 1.5次情報源の確立 -

サイバー大学の専門講義科目「現代インターネット技術論」の期末課題です.

インターネット上の1次情報源の不足

本章では,教員がレポート課題を出題し,学生が解答を執筆する過程でインターネットが及ぼす影響を考察する.学術論文ほどの厳格さは必要ないが,関連する情報を見つけて羅列する「調べ学習」を1歩進めた段階として,特に大学初年度程度の学生を対象とし,この段階の学生に最適な1次情報源が不足している現状を指摘する.

具体的には,インターネット上で信憑性の高い文献を入手するのが必ずしも容易でない現状と,レポート課題をコピー&ペーストで仕上げる学生がいる背景に1次情報源の不足が関連すると考えた理由を論述する.

インターネット上の情報源の現状

既存のオンライン文献検索システム

日本語版『ブリタニカ国際大百科事典』と英語のEncyclopædia Britannicaをベースにしたブリタニカ・オンライン・ジャパンは信憑性の高い文献検索システムであり,査読つきの論文を収録した学会誌とそのウェブページ版も信憑性が高い.アメリカの学会であるACMのウェブページのACM Digital Libraryでは,投稿された論文をキーワード検索できる.

これらのサービスを全て利用するには有料の会員登録が必要な場合もある.書籍や新聞記事も文献にあたるが,特に書籍はほとんどが有料である.ただし,有料の情報は信憑性が高いとは限らない.論文や書籍の内容は時間の流れとともに内容の価値が減り,誤りが発見されることもある.さらに,学生の母国語や英語で書かれた信憑性の高い文献の入手自体が困難なレポート課題が設定されることもある.

インターネット上の情報の信憑性

オンライン百科事典Wikipediaの日本語版には2010年7月12日現在で約689,408本の記事がある.記事数の多さはインターネットの匿名性と操作の簡便さが関係する.原則として,自分の書いた文章に責任を負う必要がなく,他人が書いた文章の訂正もできる.記事の作成や編集に必要なアカウントは無料で,個人情報の入力の必要がない.Wikipedia以外にも,インターネットには多くの情報が存在する.

一方,匿名ゆえに信憑性が十分でないこと,参考文献に記述する情報が整いにくい問題点もある.匿名の記事なら著者名は不明であり,URIを記述してもページの内容は時間とともに変わる.Internet archiveは各国のウェブページを保存しており,過去のページの内容が見られる場合もあるが,全てのページを保存しているとは限らない.

なお,Wikipediaでは記事の質を上げるために査読を導入し,一定の支持を得た記事を「秀逸な記事」として扱うが,その数は2010年7月12日現在で85本であり,全体の0.01%に留まる.「秀逸な記事」に次ぐ「良質な記事」も同日現在437本であり,全体の0.06%に留まる.

手軽で信憑性のある情報源の必要性

全世界共通のインターネットで特定の情報だけ入手に手間取る状態は不公平である.情報化社会が進む今日,インターネットは多くの教育機関で活用されており,ある程度の信憑性をもつ情報を手軽に入手できるシステムが求められる.具体的には,図1に示す領域のニーズを満たす文献管理システムが必要である.

情報を得る手間はかかるが信憑性が高いのが学会の電子媒体であり,情報を得る手間はさほどかからないが信憑性が低めなのがウェブページである.その中間が一般の書籍や電子書籍である.情報が手軽に得られ,かつ信憑性の高い情報源が求められる.
図1:インターネットの情報源の現状(青い部分が求められる領域)

コピー&ペーストを防ぐ既存の技術の限界

コピー&ペーストの現状

学生が提出するレポートの丸写しや,それを支援する業者もいる.文献[1]からの引用を示す.

いま,大学教師を悩ませているのが,学生の「コピー・アンド・ペースト(コピペと呼ばれる)」である。課題に関連する記事をオンラインで検索して,それらの文章をいくつかコピー,貼り付けて,レポートとして提出してくる。

そのレポートたるや,なかなかすさまじい。私の経験した例を上げると,前半部分は「ですます」調,後半は「である」調と文体が変わったり,途中でフォント(書体)が変化したりするぐらいは珍しくない。述語が「と本書は考える」となっていたり,「わが社は」という主語が出てきたりもする。(中略)

インターネット上には,そのような学生御用達(?)の「大学レポート・論文共有サイト」まである。(中略)コピペした文章でも,自分流に書き直せば,そこにはいくぶんかの独自性が出るはずで,実際,そういうふうに"工夫"している例もあると思うが,多くの場合,元の原稿をそのまま使ったり,極端な場合には,つぎはぎしたことが明々白々な文章を平気で提出したりする。

コピー&ペースト防止の技術と限界

本章のまとめと1.5次情報源の提案

レポートのコピー&ペーストが教員を悩ませる一方で,学生が信憑性のある適切な参考文献を入手しにくい実態がある.また,自分が提出したレポートに講評がつかないと,点数が悪くてもどこが問題か気づきにくく,全ての教員が質問に対応できる時間をもつとは限らない.

そこで,図1で示した青い部分の領域に対応する情報源を1.5次情報源として導入することを提案し,その実装案を次章で述べる.

1.5次情報源の実装案

1.5次情報源は匿名性のないCGM(消費者生成メディア)として実装されるべきである.具体的には,レポートを執筆する投稿者,査読をして投稿記事を評価する指導者,記事を参考にする消費者が三位一体となり,高等教育のクレジットサイクルの確立を目標とする.

オンライン知識取引所と銘打ったハッピーキャンパスは登録時に投稿者の個人情報入力を義務づけているが,投稿者と消費者の情報は,運営者以外は容易に参照できないため,「知識取引所」ではなく不正コピーの温床になってしまったと私は考える.

要件定義

実現のメリットと解決すべき課題

まず,メリットを列挙する.

次に,解決すべき課題を列挙する.

期待できる変化

1.5次情報源の整備により高等教育のクレジットサイクルが確立すれば,図2に示す変化が期待できる.インターネット上の情報の質が高まり,学生の意欲を上手に刺激できれば,コピー&ペースト問題もある程度解決する.また,教育現場でインターネットを活用することに否定的な人々の説得材料になる.

消費者と投稿者が切磋琢磨することで,お互いの能力とモチベーションが向上する.また,消費者と指導者,投稿者と指導者は指導を通してお互いの知的好奇心を刺激できる.指導者は教育現場等で得られた知見を活用し,投稿者は未来の指導者を目指すことができる.これがクレジットサイクルの効果である.
図2:クレジットサイクルの確立による効果

まとめ

1.5次情報源は私案だが,例えば,図1においてウェブサイトや学会の電子媒体が青い領域に近づくのは望ましい姿である.インターネットの情報は信用できないと批判するだけでは建設的ではない.インターネットのユーザはインターネットの参加者である.日常的に使っているからこそ,より良くする努力が求められる.

参考文献

[1] 矢野 直明, 『サイバーリテラシー概論』(知泉書館), pp.135-136.
[2] 株式会社アンク, 「コピペルナー」, 2010年7月11日参照.

コメント

当時はブログで公開したため,担当教官のコメントがつきました.各々の実名をハンドルネームにして公開します.

担当教官のコメント

学生間でのレポート活用のサイクルを産み出すための、1.5次情報源の確立を目指した議論をしてくれていました。自分なりの問題意識をもって、自分でシステムを提案しようというのはとても挑戦的な姿勢でよいことだと思います。そのような前向きな姿勢を持ってもらうことで、関連する技術などを必要性という視点から見付け出して学ぶことにつながりますね。ぜひ今後とも、このように考えるようにしてみてください。

さて、オクトスくんはやる気な学生さんなので、厳しめの議論をさせてもらいます。

僕は、こうした1.5次情報源というものに懐疑的です。一次情報源の重要性は、おそらくオクトスくんも理解していることと思います。一次情報源となる情報は、基本的には専門家同士の検証によって、現時点での正しさが確定しています。そのおかげで、一次情報を用いた議論というものは正しいことを前提とした議論ができるという安心感があります。思い込みや、不確定な事象を前提として議論は、不毛であったり、ときには間違った結論へといきつく危険があるでしょう。

そのため、むしろ学生にはもっと一次情報源にアクセスして、一次情報を活用する術を身につけてもらいたいと思っています。研究者は、事実を積み上げて自分の考えを説明することを求められます。このときの事実というものには、実験の結果であったり、また他の人の研究結果という一次情報を用います。こうして、事実を積み上げて正しさを証明した自分の考えというものは、これまた事実として他の人が取り扱うことが可能になります。これが研究者や学者の、学問の蓄積を積み上げるという作業になります。

インターネット上においても、自分の発言が他の人の考えの土台に成りうるという意味では、同様の心構えは重要ではないかと思います。簡単なところでは、「自分の考え」なのか「事実」なのかをはっきりわかるように発言したり、他人の発言や情報についてもそれが「考え」なのか「事実」なのかを区別して受け取るということですね。

インターネット以前の時代からも、レポート課題は事実の調査であったり、事実を土台にして自分の考えを論じるための訓練でした。これがまさにインターネット時代となっても普遍的な訓練だということを大事にしたいというのが、僕の考えです。

おっと。それでも考えの違いは採点には影響していませんよ(笑) レポートとしてみると、問題指摘はよいものの、解決法についてもっと具体的なシステムが見えるようなレポートになっているとよかったですね。

学生間でレポートを相互添削して、参考にしてみよう、よりよくしてみようという教育的目標であるならば、大賛成です。その場合であれば、また違ったシステム形態になりそうですね。サイバー大学のようなオンライン大学だからこそ、相互添削などをうまく活用した学習スタイルも確立できるかもしれませんね。

また、オクトスくんがレポートでも言ってくれていたように、自分が調査したことを活用してもらえる喜びを与えるというのであれば、レポート作成における一次情報の提供と活用というテーマでの課題設計もできるかもと思いました。課題のステージを分けて、調査ステージではあるテーマについて学生が文献調査や実験結果をしてそれを事実として集積して、考察ステージでは集積された事実(と外部の一次情報)のみを用いて自分の考えを述べるという課題設計です。こうすることで、事実の蓄積とその活用、そして誰の情報を引用したのかの明確化などを折り込んだ課題運営ができるのかもしれません。この場合でも、何かしらの支援システムが必要になりますね。

これらのような教育によって、一次情報の活用ができるようになる、また自己の情報発信でも事実と考えを区別するなどが可能になるのではないかと考えています。それが将来のインターネットにおける、信頼性の高い情報を発信できるユーザーの増加につながるのではないでしょうか。

また機会があれば議論をしましょう。いつでもかまいませんよ!

私の返答

tel先生,お忙しい中コメントを投稿していただき,ありがとうございます.

1次情報源の重要性は理解していますし,実のところ,レポート課題で書いた大学初年度程度の学生であれば1次情報源を探すべきとも思います.情報の受発信において,何が「事実」で何が「意見」か見極めるのも大切な姿勢です.インターネットの普及前は,参考文献は学会誌や書籍・新聞だけだったのか興味深いです.私が大学生になったときは,既にインターネットが普及していたので,少し想像がつきません.一方,インターネットの普及によるコピペ問題は身をもって理解しています(苦笑).コピペ問題がここまではびこると,それを脱却してすぐに1次情報源にあたるよう,全ての教員が指導するのは(誠に残念ながら)難しいでしょう.少なくとも,相当の時間を要します.そこで,ワンステップおいて1.5次情報源を導入し,その利用者に1次情報源の使い方を身につけてもらうこと,その間,初等教育では1次情報源の重要性やインターネットの情報への臨み方を指導すれば,最終的には1.5次情報源がなくても済むと考えます(コピペ問題の現状の解決としてはネガティブな考え方かもしれません).

もう1つの論点である「学生間でレポートを相互添削して、参考にしてみよう、よりよくしてみようという教育的目標」,「自分が調査したことを活用してもらえる喜び」は1.5次情報源でなくても行えそうです.なるほど,ここで1次情報源の活用法を論じるレポート課題をだして,それを皆で参照すれば,結果的に1次情報源の重要性を理解する教育ができますね.盲点でした(苦笑).

課題の発表をインターネットで行えば,課題だけでなく教員とのやり取りも可視化されます.そして,第三者がそれらを見て「これらのような教育によって、一次情報の活用ができるようになる、また自己の情報発信でも事実と考えを区別するなどが可能になるのではないかと考えています。それが将来のインターネットにおける、信頼性の高い情報を発信できるユーザーの増加につながるのではないでしょうか。」に関する問題意識や解決策を思い浮かべ,コメントやトラックバック,Twitter等で拡散していき,議論が活性化すれば,インターネット上の情報の信憑性や情報への接し方の問題も良い方向へ動いていくと思います.

気がかりなのは,演習での課題提出方法の議論で,ブログ等を挙げる人がかなり少なかった点です.出来の悪い課題を公開したくないという人もいましたが,良いか悪いかは見ないと分かりません.ブログを作る手間を挙げる人もいましたが,フリーで使いやすいブログサービスもあります.本人確認や内容一致の問題は,LMSの機能や教員への署名付きメールの併用で担保すれば十分です.総じて「逃げ」の理由ばかりで,情報公開にネガティブな人が多いと感じました(私の高望みでしょうか).情報発信の自信がないと,いくらブログやTwitter等のツールがあっても,宝の持ち腐れになりますし,先の議論も活性化しないと思います.NHK「白熱教室」で紹介されたハーバード大学の講義は,講義中は内容の濃いディベートが活発に行われ,時間外では教授のブログのコメント機能が活用されています.番組を見て「素晴らしい」で終わらないよう,自分達も「素晴らしい」ことができる意識をもつ必要があります.

改めて,コメントありがとうございます.また,レポートの公開を許可していていただきありがとうございました.秋学期から卒業研究が始まるのでどの程度時間がとれるか分かりませんが,勉強会に突如お邪魔してこの続きを(先生と私の2人だけではなく)もっと多くの人と話せれば良いですね.オンライン大学であるサイバー大学は,学外からは何をしているか見えにくいので,こういう機会を増やしていければと思います.

IPv6のルータ警告オプションについて

サイバー大学の専門演習科目「現代インターネット技術演習」の第10回課題の一部です.

調査内容

IPv6のルータ警告オプションに注目した理由

現在はYouTube等の動画配信サービスが多数提供されているが,ブロードバンド化が進む前とも言える2000年以前に,IPv6上で動画配信を行うための機構として考案されたIPv6のルータ警告オプション機能は先進的な取り組みであり注目に値する.

IPv6のルータ警告オプションは,IPv6拡張ヘッダのホップバイホップオプションに含まれ,IPv6のルータ警告オプションを含むか否かで,当該パケットのデータグラムを厳密に調べる必要性の有無を示す.IPv6のルータ警告オプションなしでその必要性を判断するには,全てのデータグラムが含む上位層(L3より上位の層)の情報を解析するしかなく,処理時間が非常にかかる(注:1999年10月現在).

一方,インターネット上の動画配信における通信品質(QoS)保証に用いられるRSVPは,ルータがパケット内に含まれるデータグラムを厳密に調べる必要がある.なぜなら, RSVPはフロー単位に通信品質を保証するため,動画配信での遅延の発生具合や,その時点での最適な経路等の情報が必要であり,これらの情報は経路上にあるルータによって調査・更新されるからである.

IPv6のルータ警告オプションの機構

ホップバイホップオプションのヘッダダイアグラムを図1に示す.

先頭からOption TypeとOptData LenとOption Dataのように続く.
図1:ホップバイホップオプションのヘッダダイアグラム

Option TypeとOptData Lenは8ビットで,Option Dataは可変長である.ルータがOption Typeを識別できない場合で,Option Typeの先頭3ビットが000なら,ルータはこのパケットを無視してヘッダ処理を続け,OptData LenとOption Dataは経路途中で変更しないことを表す.そこで,IPv6のルータ警告オプションでは図1の内容を図2に示すように設定する.

Option Typeに00000101,OptData Lenに00000010を設定する.Option Dataは2オクテットの値を設定する.
図2:IPv6のルータ警告オプションにより設定されたホップバイホップオプションのヘッダダイアグラム
value
以下のネットワークバイトオーダでの2オクテットコード
values
0:データグラムはマルチキャストリスナ探索メッセージを含む
1:データグラムはRSVPメッセージを含む
2:データグラムはアクティブネットワークメッセージを含む
3-65535:将来のためIANAによって予約されている

受信ホスト(パケットの最終宛先)では,データグラムの複数の評価を防ぐため,受信時にこのオプションを無視する.RSVPメッセージでは,データグラムはUDPRSVPプロトコル処理が必要となるが,ルータはIPv6ホストとIPv6ルータのどちらとして振る舞えば良いか分からないので,valueフィールドでどちらとして振る舞うかを指定する.ただし,データグラムに要求される処理がIPv6データグラムのペイロードの調査を含むならば,中継ルータはホストとして振る舞う.

まとめと感想

不要な処理をルータに指示しないことで,ネットワークの効率良い利活用を狙った機能である.現在はブロードバンドのインフラが整備されているが,それに伴い,ユーザが求める通信品質も上がる.新たなサービスを提供する際,帯域幅の向上を求めるのは限界があり,また,ユーザの欲望は上限がないため,既存のインフラをいかに効率良く使うかが重要なことを再認識した.

妥当でないHTMLがAjaxfyに及ぼす課題

サイバー大学の専門演習科目「現代インターネット技術演習」の第13回課題の一部です.

調査内容

Ajax・Ajaxfyとは

Ajax(Asynchronous JavaScript + XML)とは,DOMやXML,JavaScriptを組み合わせた技法のことで,特定の製品や技術を意味しない.2005年2月18日,Jesse James Garrett氏がブログでAjax: A New Approach to Web Applicationsという記事を書いており,Ajaxという名前はここから普及したとされている.Ajaxを使った代表的なサービスにGoogleマップがある.

既存のウェブシステムをAjax化することをAjaxfyと言う.この際,既存のサーバ側フレームワークやHTML画面と,Ajaxとの相性の確認,既存システムの利用者へ配慮を行うことが必要である.

ブラウザ戦争がHTMLとJavaScriptに与えた影響

インターネットの普及と発展により,Internet ExplorerとNetscape Navigatorによるブラウザ戦争が勃発した.両陣営はユーザ獲得のためブラウザに独自の機能を次々と加えた.また,Netscape Navigator 2.0にJavaScriptが搭載され,手軽に動的なページが作成できるようになり,Internet ExplorerもJscriptを搭載する形で対抗した.

ブラウザ戦争の過熱により,特定のブラウザでないと期待通りに出力や動作がなされないHTMLやJavaScriptやうまれた.現在,HTMLW3Cが標準化を進めており,JavaScriptも1999年12月にECMAScriptとして標準化され,特定のブラウザでないと動作しない機能が次々と開発される状況はある程度収束したと考えられる.

しかし,ブラウザ戦争により世の中には多くの「(文法的に誤った)妥当でないHTML」が存在している.妥当でないHTMLの典型例を示す.

本来,HTMLは文書の構造を,CSSは文書の装飾を表すもので,この2つは適切に使い分けられなければならないが,現在の多くのページは妥当でないHTMLで書かれていることが多い.この事実を示すため,数件のウェブサイトについてFireFox 3.6.4とHTML Validator(バージョン0.8.6.1)で文法違反の様子を調査した.その結果を表1に示す.

表1:ウェブサイトの文法違反の調査結果(2010年6月27日)
サイト名 エラー数警告数
Google12541
Yahoo! JAPAN698
首相官邸ホームページ20
Amazon.co.jp91016
Wikipedia日本語版170
サイバー大学174

なお,HTML Validatorの文法違反検査には限界がある.例えば,table要素を段組のために用いても,段組自身が正しい文法で書かれていればエラーとは見なされない.ゆえに,妥当でないHTMLの文の数は表1の数値より多い.

妥当なHTMLを書く必要性

文献[3]によれば,HTMLCSSを適切に使い分けているシステムのAjaxfyは容易だが,そうでない場合は効率良くAjaxfyすることは困難になりかねず,画面全体をXHTMLとCSSで書き換えることが一般的であるという.

そもそも,Ajaxを使わなくても妥当なHTMLを書くことはアクセシビリティとユーザビリティの確保の観点からは大切である.妥当でないHTMLが一見して正しく表示される理由として,ブラウザが良きに計らって解釈していることがあり,本来は正しい表示が保証されなくても不思議ではない.

まとめと感想

Ajaxは古くて新しい技術である.Ajaxにより実現されたサービスは目を引くものが多いが,その根本は以前から歴史のあるHTMLやJavaScriptがベースになっているからである.Ajaxfyの困難さを取り除くためには,Ajaxを表面的に理解するだけでなく,HTMLやJavaScriptに対する深い理解が必要である.

参考文献

[1] 江原 顕雄, 「いまさら聞けない、"Ajax"とは何なのか?」(2007年8月23日), 2010年6月27日閲覧.
[2] 『Software Design 2008年3月号』(技術評論社), pp.108-111.
[3] 実森 仁志, 「特集3 これなら使えるAjax」, 『日経SYSTEMS 2007年3月号』(日経BP社), pp.61-68.

MPEG-21の普及に向けたX.509の活用

サイバー大学の専門演習科目「現代インターネット技術演習」の期末課題です.

はじめに

ブロードバンド化に伴い,動画等のマルチメディアコンテンツがインターネット上にあふれているが,著作権に違反したコンテンツが流通しているのも事実である.個人がマルチメディアコンテンツを簡単に入手できるようになり,公開を手助けするサービス(YouTubeやニコニコ動画等)が普及している現在,膨大なコンテンツを権利保護を含めて管理するのは煩雑でコストもかかる.そこで,著作権や肖像権等を管理するシステムとして,コンテンツのメタデータとして権利者一覧を記述する他,コンテンツの一覧と権利者を検索するサービスがあると便利である.そして,実現への鍵を握るのがMPEG-21とX.509である.

調査内容

MPEG-21とは[1],[2]

MPEG-21は,従来は独立してコンテンツと呼ばれていた音楽・画像・テキスト等のデータをメディアリソースとして扱う.これに,MPEG-7等のメタデータと,XML等の「コンテンツ間の構造」を加えてデジタルアイテムとし,マルチメディアフレームワークを流通するコンテンツの基本単位とする.

MPEG-21はビデオやオーディオのコーデックの標準化と異なり,コンテンツの流通や著作権管理等の新しい分野へ進出している.実際,MPEG-21の仕様化の範囲である要素の1つに,「ネットワークおよびデバイス上でのコンテンツの著作権を管理保護する方法『知的財産の管理と保護』」がある.異なるデバイスやプレーヤーでDRMの相互運用と連携動作を保障する一般的なアーキテキチャを規定するため,メタデータを機械的に扱うための権利表現言語の策定も進められている.権利表現言語によって「誰に」「どのコンテンツを」「どの条件で」「どのような利用を」許諾するか表現できる.

動画投稿を例としたコンテンツ流通の課題とX.509の活用

動画投稿のサービスでは,動画に必要なメタデータを投稿者に入力させ,サービス提供側が適切かどうかを判断し,問題があれば投稿を却下する仕組みを整えるのが望ましい.流通する最初の段階できちんと情報を記述すれば,コンテンツを再利用する際,権利者の許諾をその都度得る手間が減る.また,課金が必要なコンテンツが無料で再生されないように,動画プレーヤーがクライアントの課金情報を確認し,課金されていない場合は再生ができないようにするか,該当するコンテンツ管理団体に再生した事実の情報が流れるようにする.

ただし,形式的には正しくても内容が異なっているメタデータの確認は難しい上に,メタデータを入力した人と投稿者が同一人物でない可能性もあり,罰則を適用する際の障害となり得る.そこで,X.509の活用が考えられる.RFC 3739の「3 - The Signing KEY Record」[3]では,証明書の発行者の情報を示すissuerフィールドを用いて,証明書の発行に対して責任を負う組織を識別できる.また,名前は公式に登録された組織の名称であることが求められている.動画投稿サイトでX.509を活用すれば,違法なコンテンツの流通をある程度食い止めることが期待できる.

日本の法整備の問題点

特定の相手に双方向の情報伝達を行うことが通信であり,不特定多数または特定多数に単方向の情報伝達を行うことが放送と考えれば,現在では通信と放送の区別がほとんどつかない.例えば,テレゴングはテレビ番組等でアンケートを行い,視聴者は特定の電話番号に電話をかけて回答するが,これらは不特定多数の相手に双方向の情報伝達を行う.また,ニコニコ動画のように,生放送の視聴者が反応をコメントとしてリアルタイムで示す動画配信サービスもある.さらに,インターネットの普及と発達によって個人が放送を行うことは容易になり,通信と放送の融合は必然的に進んでいる.

この点を鑑みると,日本でのインターネット放送への法整備は先進国に比べて遅れている.放送を定めた法律に電気通信役務利用放送法と著作権法があるが,前者は総務省で後者は文化庁(文部科学省配下の省庁)であり,所轄官庁が異なる.異なった省庁が同じことを扱うと,整合性を取るだけでも煩雑になり,インターネットの技術の進化に追いつけない.

解決策の提示

解決策の1つとして,韓国の事例が挙げられる.文献[4]において,韓国は1994年2月から情報通信政策を一元的に行う為に情報通信部を設けたあり,また,文献[5]においては2008年2月の省庁再編で「今もっとも重要な政策の1つである放送と通信の融合に関しては、『放送通信委員会』を新設した」と書かれている.通信と放送の融合を見据えた政策を1つの組織が集中して行えば,異なる省庁間での整合性を保つ手間が省ける.

著作権法改正にあたる者の意識改革も求められる.インターネットの登場前にあった法律を逐次インターネットに対応させるのではなく,「インターネットは全世界共通の公共の媒体である」との認識で法整備を進める方が,通信と放送の融合が進む社会に適合した成果が得られると考える.

本科目全体のまとめと感想

本科目では現代インターネットの技術の変化について学んだが,技術と社会は密接に結びついている.インターネットの諸問題の解決には,技術的アプローチと社会的アプローチの双方が必要であるが,現代は技術の進歩に社会が追いついていない.日本政府はe-Japan戦略の推進で世界最先端のIT国家を目指しているが,政府だけでは技術の変化に追いつけない.「官から民へ」はインターネットの問題でも言えることである.

参考文献

[1] 妹尾 孝憲, 「MPEG-21, MPEG-Aの概要とその目的 : マルチメディア・フレームワークとアプリケーション・フォーマット」, 『情報処理』48巻10号(2007年10月), pp.1118-1122.
[2] 岡田 大助, 「マルチメディアフレームワークの全体像を描くMPEG-21」, 2010年7月15日参照.
[3] S.Santesson, M.Nystrom, T.Polk, "Internet X.509 Public Key Infrastructure: Qualified Certificates Profile", RFC 3739.
[4] 「大韓民国情報通信部」, 2010年7月15日参照.
[5] 佐々木 朋美, 「解体された情報通信部―韓国のITはいずこへ」, 2010年7月15日参照.

コメント

当時はブログで公開したため,担当教官のコメントがつきました.各々の実名をハンドルネームに,第三者の実名は伏せて公開します.

担当教官のコメント

動画コンテンツの取り扱いについて、MPEG-21とX.509の利用を考察してくれていました。なかなか面白い対象を選択して調査してくれていましたね。これらの技術を選択していたのは、この数年でも始めてでした(笑)

さて、問題意識はとてもよいことなのですが、調査自体が各技術の概要紹介にとどまっていたのはもったいないところでした。X.509を利用しようという説明の部分も少し短かったので、具体的な利用イメージがつかめませんでした。もう少し文章量を増やして、必要に応じて図なども入れて説明するとよりよいレポートになりますね。

X.509の利用は、コンテンツ利用者のidentityの宣言にX.509の証明書を使おうということでしょうか?X.509の発行者(issue)は実在組織が求められているため、証明書の発行段階でユーザーを現実世界の人間と紐付けをしておくことで、オンライン世界での顕名性を確保しようということでしょうか?

だとすると、これはX.509に限らず、登録制などによって現実世界の人間と対応付けをしたユーザー管理をすればいいのではないでしょうか?また、そもそもコンテンツホルダーでない人がアップロードできないようにする運用などではダメなのでしょうか?

コンテンツ流通のアーキテクチャ全体を意識するならば、コンテンツ流通とそこでの問題が発生しそうな場所の指摘、そしてその問題に対する技術的解決という順序で論を進める方法がありますね。また、コンテンツ管理保護技術としてのMPEG-21に注目するならば、まずはこの技術がどういうことができるのか技術調査と報告にすることも考えられますね。MPEG-21の規格文書を読んでまとめてみるなどですね。この二つのどちらかの流れでまずはストーリー全体を語れるとよかったのかと思いました。

さらにコンテンツ権利の法的保護という側面からは、コンテンツ権利について現行の著作権とは異なる扱いを提案しているCreative Commonsというものがありますね。これはデジタル時代の新しいコンテンツ取り扱いを提唱しているもので、おそらく興味をもってもらえるものかと思います。こちらについても参考にどうぞ。

今後も興味をもったことについて調査を続けることを大事にしてくださいね。それでは!

私の返答

tel先生,お忙しい中コメントを投稿していただき,ありがとうございます.

MPEG-21とX.509を選んだのは,(実名)先生のインターネット放送とその演習で興味をもったからです.ご指摘の通り,技術の概要にとどまったり図表がなかったりと,講義の期末課題に比べて質・量ともに不足してしまいました.

「X.509に限らず、登録制などによって現実世界の人間と対応付けをしたユーザー管理をすればいい」が短期的解決策として難しいと考えた理由

本人確認性の高い登録制として,国民総背番号制で代用できると思います.ただ,現実問題として,例えば以下の問題が指摘されています.

Wikipedia - 国民総背番号制 - 2.3 日本

これらは行政のIT化(e-Japan戦略の実行)の遅延や情報教育の問題(個人情報への過剰反応)も絡んでいます.中長期的にはこの問題も解決すべきですが,短期的かつ権利団体を説得するには,国際的かつ厳密なX.509(またはそれに匹敵するもの)でないと厳しいと考えました.

蛇足ですが,現代インターネット「技術」演習において,論点が技術から外れることを私が迷った経緯があります(他科目でもWinny問題のレポートで同様の迷いがありました).行政や教育をとりあげると社会的問題への言及になってしまうからです.

「そもそもコンテンツホルダーでない人がアップロードできないようにする運用などではダメなのでしょうか?」が難しいと考えていた理由(過去形にしました(笑))

放送局の番組等は,DRMの利用でコンテンツホルダーのみがアップロードできる方法が有効かもしれません.Yahoo!の動画ニュース(台風4号の大雨情報)ではフジテレビが番組の一部を放送しました.気がかりなのは,「著作権の問題のため映像をカット」する部分があったことです.甲子園の試合が途中で中止されたことに触れていたため,試合を映した部分が隠されたと予想します.しかし,雨が強く降る映像を数秒使う程度なら,目くじらを立てて著作権を主張すべきではないと考えます.縦割りの方法が権利の処理を難しくしているならば,コンテンツの流通の大きな障壁になると考えます(通信と放送の融合も同様に難しくなります).一方,個人が私的なネタ等を投稿した場合,クリエイティブ・コモンズの利活用が有効かもしれません.

これらの問題が解決されれば,YouTubeやニコニコ動画で動画を楽しみつつ,大切な権利は保護される,健全なコンテンツ流通のアーキテクチャの完成が期待できます.

改めて,コメントありがとうございます.また,レポートの公開を許可していていただきありがとうございました.成果やそれに対する議論の可視化は,大学や教育現場の活性化につながると信じています.私以外にも学生側でこういう流れがでてくれば良いと思います.秋学期から卒業研究が始まるのでどの程度時間がとれるか分かりませんが,勉強会に突如お邪魔してこの続きを(先生と私の2人だけではなく)もっと多くの人と話せれば良いですね.