帝の影

これは、ある国の怪事件の話である。時は中世、このとき国は水村皇帝という者の支配下にあったが暴君であり苛酷な統治をし、逆らう者は抹殺するというありさまであった。逆らう者がでるのを監視するために彼は全国に地頭と呼ばれる警備隊を設けて、少しでも民が怪しい動きをしているようならば地頭にすぐに殺してもらうようにし、民の反乱を防いでいた。

さて、男鹿の国に山田源五郎と安達新之助という男がいた。彼らは以前反乱をくわだてたがすぐに地頭にかんづかれて殺されそうになったところを何とか逃げてきた。しかし、彼らの名前と顔は全国の地頭に伝えられており、捕まるのは時間の問題であった。そこで彼らは捕まって処刑される前に何とか皇帝を暗殺しようと思い、皇居のある竹川の国へと向かった。皇居にはものすごい数の警備隊が常駐している。彼らは皇帝の外出の機会をうかがったが、スパイでもしようものなら生きて戻ってくることは不可能である。しかも、皇居内で捕まると民衆の前で公開処刑にされてしまうのだ。しかし、彼らは皇帝が次の水曜日に海へ泳ぎに行くという情報を得た。民を苦しめておいて自分は海水浴に行くとは何たることか。2人の士気は高まった。

当日、海水浴場には不自然なほどの多くの警備員がいた。海パン姿の皇帝の周りに重装備をした警備隊がいるのは奇妙な光景であった。この状態では皇帝のところにたどりつくまでに警備隊に見つかって捕まってしまうので、2人は浜辺の近くの林に隠れて機会をうかがった。

しばらくして皇帝がトイレに行きたいと言いだした。公衆トイレが近くにないので林の中でしようとして林に向かったところ、皇帝のあとを警備隊がついていこうとした。しかし、皇帝はこれを拒否した。水着で立ちションをする姿を見られるのは誰でも恥ずかしいと思うはずだから当然のことであろう。皇帝は林の奥へと入っていったが2人が隠れていることには気づかなかった。

そして皇帝が立ちションを始めたとき、2人は忍びより皇帝の口をテープでふさぎ声がでないようにした。2人も声をださずに襲いかかり、ジタバタする皇帝を刀で斬りつけ逃走した。警備隊は全く気付かず、いつまでたっても帰ってこない皇帝を不審に思って林の中に入っていった。警備隊が皇帝を見つけたときには皇帝は既に死んでいた。

すぐに犯人の大捜査が始まったが、当時は指紋鑑定等ができるほどの技術がなかったので犯人を割りだすのは不可能だった。しかし目撃情報により2人が犯人であることが分かり、異常なほどの厳戒態勢がしかれた。しかも皇帝の死を喜ぶ者は当然多いわけであるが、喜んでいるところを地頭や警備隊に見られれば問答無用で処刑されるという状態になってしまった。

それから1年後、彼らは生きていた。そろそろほとぼりがさめた頃だろうと竹川の国から脱出しようとした。今までは警備が異常であったので、うかつに脱出しようとするのは危険であったので空屋敷を見つけてそこでひっそりと暮らしていた。彼らは皇帝が変わって一年もたったことだし警備隊も前のような異常な状態ではないだろうと思った。しかし、新しい皇帝は水村皇帝の無念さを知って暴君と化していたことは彼らは知らなかった。

屋敷を出てからあまりしない内に警備隊に見つかった。彼らは逃げて、皇帝を暗殺した海岸にたどりついた。林の中に逃げ込んだ彼らは人目につきにくい倉庫を発見し中に入った。警備隊は倉庫の存在には気付かなかった。2人はここで一夜を明かすことに決めた。

夜になり、そろそろ寝る時間になった。山田は用をたそうとドアを開けようとした。しかし、ドアは開かなかった。ドアには鍵はないので開かないはずがなかった。すると倉庫の真ん中から突然出火した。出火の原因になるようなものは何もなかった。しかも炎はオレンジ色ではなく青白い色だった。燃え広がりはしなかったが、いくら消そうとしても消えなかった。その内に倉庫内の酸素が使い果たされ、炎は不完全燃焼を始めた。安達は一酸化炭素中毒で意識を失い、いよいよ怖くなった山田は力づくでドアを開けようとした。

すると、今度は簡単にドアが開いた。ドアが開かないような仕掛けを外からされているようなことはなく、不思議に思っていた。その山田の肩を背後からたたく者がいた。こんな人気のない海岸に誰がいるのかと思って振り向くと、そこには水村皇帝がいた。不気味な笑みを浮かべていた。山田は怖くなって叫んでしまった。この声を警備隊が聞き逃すはずがなかった。山田は必死で逃げようとしたが、一酸化炭素中毒のせいでフラフラとしか逃げられず、ついに捕まった。

翌日、民衆の前には公開処刑される2人の姿があった……。