始めに

300字小説は,作家の川又千秋さんが提唱したもので,ワンショット・ノベルとも言われます.

サイバー大学公式のSNS内のコミュニティで私が投稿した作品を,原則そのまま掲載してます.コミュニティのローカルルールとして,まず,先着3名がそれぞれ1つのお題を投稿します.でそろったら,3つのお題(固有名詞化しない限り受け取り方は自由)にそって,30分以内に本文(300字以内)と題名を考えます.

作品一覧

上に掲載してるものほど新しい作品です.

電卓のしっぺ返し

制作時間(字数) 30分(278字)
お題 再開 不倫 計算機
本文

「この電卓は、検定では使えません。」

試験官に放たれた言葉。全ての準備が水泡に帰した瞬間だった。

数年前、簿記の勉強をしていた私は、初心者向けの検定試験に合格した。しかし、次の級を目指す前に、大学に入学した。統計学の講義では関数電卓を毎回使った――制限時間の厳しい期末試験で、関数電卓なしで合格点を取るのは至難の業だった。だから、講義を通して関数電卓に慣れておく必要があった。

簿記の勉強を再開したまではよかったが、検定では関数電卓が使えないことを忘れていた。便利さを求めて高機能の電卓に浮気をしたことが、思わぬ落とし穴になった。人に限らず、不倫の代償は大きい。

備考 いったん三毛猫マロシリーズから抜けました.半分ノンフィクションです.さすがに,簿記の試験に使ったことはありません(笑).

マロ違い

制作時間(字数) 33分(289字)
お題 映画 図書館 水泳
本文

近くの図書館へ行ったら、びっくり。『マロの海底冒険』を見つけた。帯には「映画化される予定」と……。

あれは、夏の暑い日のこと。庭で打ち水をしたら、マロが当たりにきた。押し入れの奥からビニールプールに水をため、水浴びさせたら喜んでいた。それからは、水浴びをしてから縁側で昼寝をするのがマロの夏の日課になった。

孫がそれを、夏休みの絵日記の題材にした。さながらマロが水泳をしているような傑作だった。

だが、手に取って読むと、孫の書き方とは思えない。ページをめくれば、さらに驚いた。

マロがスキューバダイビング?

奥付を見ると、著者は独逸人のマロ氏だった。単なる早合点だったが、なぜか安堵した。

備考 今回は三毛猫マロ(?)をもう少し前面にだしました.時間の割にできが悪いです.自らのお題「図書館」で自分の首を絞めたかも.

おもてなし

制作時間(字数) 49分(281字)
お題 メガネ コーヒー 音楽
本文

「うーん、これは直しようがないですね。」
「そうですか。では新しく買います。」
「これと同じものでよろしいですか?」
「はい。」
「それでは、少々お待ち下さいませ。」

そう言うと、店員は倉庫へ消えていった。

数日前、マロがメガネを壊してしまった。裸眼視力が0.1の私には、メガネなしの生活がきつい。もっとも、音楽に合わせてエクササイズをしていたら、マロの尻尾を踏んでしまったのが災いの始まりなのだが。

しばらくして、別の店員がでてきた。「どうぞ」とすすめられたのはブラックコーヒー。

砂糖はない。ミルクもない。

紙コップからあがる湯気を見つめながら、苦い顔を浮かべるしかなかった。

備考 ブラックコーヒーは嫌いです.今回はあえてSkypeで音声チャットしながら書いたため,時間が大幅にオーバーしました.

異国からの届け物

制作時間(字数) 22分(285字)
お題 睡眠不足 ビール 交流
本文

家庭の事情で遠い異国に転居した旧友から贈り物が届いた。はて、何かあったのだろうか。こちらから連絡した覚えはないし、何か贈ったわけでもない。

箱を開けてみると、瓶ビールがたくさん入っていた。しかし、銘柄は外国語なので読めない。

箱の中には、彼自筆の手紙が同封されていた。

「ご無沙汰しております。元気ですか? こちらは国際交流の仕事が忙しく、睡眠不足になりがちですが、元気にやっています。同封したのは、この国でそれなりに有名なビールです。あまり良いものではありませんが、どうぞお受け取り下さい。」

値段は関係ない。真心が伝われば十分なのだ。彼に何か贈ろう。マロの写真も同封して……。

備考 サイバー大学の第2回関西勉強会が行われた後で,お題がそれに関連するものとなってます.今回はお題の決定に関わってません.

エアポケット

制作時間(字数) 23分(268字)
お題 初心 13 地図
本文

ゲームセット。中学最後の大会は初戦敗退に終わった。

卓球を本格的に始めたのは13歳の時で、他の部員に比べれば遅い方だった。卓越した才能はなかったが、地道に練習を続けた。練習はうそをつかなかった。気がつけば、卓球部の部長として中学最後の年を迎えていた。それだけに初戦敗退は惨めだ。

今から思えば浮き足だっていた。大会会場までの地図を読み間違えて遅刻し、冷静になる間もなく試合開始。凡ミスだけを重ねた。

顧問は試合後にこう言い放った。

「初心忘るべからず。一からやり直せ。」

帰宅するとマロが待っていた。ひっかかれた。エサをやることも忘れていたとは。

備考 「13」は私のお題です.13日だったからですが,本文では違う意味で13を使いました.マロに重点を置きませんでしたが,最後にちゃっかり登場してます.

マロの挑戦

制作時間(字数) 27分(293字)
お題 検定 あめ ブロック
本文

町内会のチラシに目が釘付けになった。

『我が町ペット自慢検定開催(小雨決行) 主宰:我が町ペット振興委員会』

パン食い競争や障害物競走といい、さながら運動会。出場すれば合格とは、町内会らしいイベントだ。1つの種目しか応募できないため、障害物競争に我が猫をエントリーした。

当日は晴天。ペットの微笑ましい姿に癒さていたが、パン食い競争の時にマロが急に怒り出した。慌ててなだめたが怒りが収まらない。そして、障害物競走の準備が始まると、すぐにスタートラインについた。

笛の音が響いた直後、ブロックを軽々と超えてゴール。圧勝した後、パン食い競争でちらかったパンを持ってきた。

食べ物の恨みは怖いということか。

備考 マロシリーズ第2弾.私が決めたお題「検定」も含め,全体的にネタに走りすぎ.

ゆとり

制作時間(字数) 20分(297字)
お題 うたた寝 音楽 小鉢
本文

夜は肌寒いが、昼間は暖かくなってきた。桜が咲き始め、爽やかなそよ風が吹く。縁側で春の音楽の心地よさを味わっていた。

「マロもよく寝ているの……」

日向ぼっこを楽しんでいる猫を見ていると、飼い主である私もついつい仮眠をしたくなる。犬は飼い主に似るが、飼い主は猫に似るのかもしれない。気づけば、うたた寝をしていた。

数分後。

――ガシャン!! ウニャーオ!!

何事かと思えば、知らない間に猫が起きていた。ご飯の時間に飼い主が眠っているため、自分でご飯を探しに行ったらしい。

とっさに大好物「マロやキャット」を小鉢に盛ったところ、呼び止めなくてもこちらに向かってきた。そして、食後は縁側で二度目の日向ぼっこにしゃれ込んだ。

備考 マロシリーズ第1弾.ペットフードを盛るのがなぜ小鉢かは深く追及しないで下さい.

ダブルパンチ

制作時間(字数) 不明(297字)
お題 筋肉痛 酒 明日
本文

接待ゴルフはどうも気にくわない。得意先の人に負けるだけなら楽だが、あまり時間を食うと相手はイライラするらしい。

OBや池ポチャは当たり前。バンカーに入れば目玉焼き。得意先の人にはお世辞を言わないといけないが、自分がやりすぎるとわざとらしい。

いっそ、学校のビジネスマナーの科目で、「接待ゴルフの上手なかわし方」の演習を入れてみたらどうか。

18ホールを通して回ったから、明日は確実に筋肉痛だろう。筋肉痛には慣れっこだが、ゴルフの後にもう1つの難関が待っている。

お酌。

筋肉痛に二日酔いは勘弁だ。たいてい、こういう場でのお酒は五臓六腑に染み渡らず、七転八倒の明日を迎えることになる。

明日が休日なのは不幸中の幸いだ。

備考 前日にテニスをしたので,お題に「筋肉痛」を指定しました.また,テニスのメンバーで接待をよくしてる人がいて,その話が頭に残ってたので早く書けました.

一件落着

制作時間(字数) 45分(281字)
お題 インターネット メモ帳 風
本文

都会の喧噪から離れて一人旅、山奥の温泉旅館でゆっくり過ごすはずだったが、メモ帳を見て背筋が凍った。

女将に温かく迎えられ、広々とした一人部屋。山の幸に舌鼓を打ち、湯につかった後に思いだすとは皮肉である。レジュメの締め切りが今日中だった。既に仕上げていたが、電子提出を忘れていた。

手元には着替えと筆記用具以外に何もない。携帯電話は圏外だ。旅館の電話で研究室に連絡し、電話にでた学友と相談していたら、ひやりとした風を感じた。

開いた障子の方を見れば、目を疑った。

「聞き慣れた声だと思ったら奇遇だね。でも、ここまで来て、そんなことを話していたら、明日の飯がまずくなるぞ。」

備考 初めて制限時間を超えた作品で,300字の限界を最も辛く感じました.今回もお題の指定に関わってません.

消えゆく四季

制作時間(字数) 不明(262字)
お題 外 カメラ 長い影
本文

外にでてから、もう何時間経ったのだろうか。美しい紅葉を撮影しようと山に登ったが、絵になる写真が未だに撮れない。それどころか、三脚にカメラを乗せて撮影しようとする気すら起きない。

今年は、夏の砂浜でも良い風景が撮れなかった。ラニーニャ現象が四季を消したとはまさにこのことだ。

色づいた木々はどれも中途半端で、枯れてしまったものもあった。毛皮のコートを着てもなお寒く感じるのは、気のせいだけではないはずだ。

ふと足下を見れば、足下から長い影ができていた。日が暮れてしまう前に帰宅しよう。夕凪の後は、寒い風が再び吹き付けてくるのだから。

備考 今回はお題の指定に関わってません.強引に理系ネタを使う一方,最後に「夕凪」とコミュニティ管理人のハンドルネームにかけてます.

不況

制作時間(字数) 不明(300字)
お題 リフト 茶 水
本文

無線が入った。

「運転開始!」

無茶な計画だが仕方ない。不況続きでゲレンデの一部閉鎖を余儀なくされたが、高速リフトを撤去する予算もない。

閉鎖するコースは立入禁止になるが、最近はそういう区域に入って危険な滑走を楽しむ者が多い。水分がとれなければ命を落とすが、体温の低い時に冷たい水を飲むのも心許ない。温かいお茶を飲めば少しはホッとするだろう。

最初のリフトが到着したが、案の定、何も乗っていなかった。

麓に無線を入れた。

「失敗だ。」

リフト直下のコースをたどると、コップが散乱していた。中身のお茶はこぼれ、所々で雪が溶けていた。横目で見つつ、麓まで滑降した。

「せめて魔法瓶にできないのか。」
「予算がないんです。」

備考 最初の作品.この回に限りタイトルを指定しなかったので,後からつけました.冬山を甘く見たゆえに多発した事故への憂慮を織り交ぜました.